和男は茜という名を聞いて、改めて彼女の着ていたドレスを見たら、真っ赤な色だったので、自分の好きな色が赤であることを思うと、それだけで好感を抱かずにはおれなかったが、それだけでなく、彼女が小さなワッペンのようなものを肩の近くに貼っていたが、それをよく見ると、ビートルズの四人の顔があしらってあったので、興味を抱き
「茜さんの肩に張ってある奴、ビートルズのワッペンみたいだけれど、あなたの世代でビートルズって言ってもあまりぴんと来ないんじゃないかって思うけれど、好きなの?」
と聞いたら、芝沢が代わりに
「茜ちゃんは大のビートルズファンなんだよ」
と言った。和男が
「そうなの?」
と聞くと
「そうなんです。私がファンだってことを知っていて、あるお客さんがロンドンのCDショップでこれをビートルズのCDを今度出たデジタルリマスターズを買った時に、偶然その店でワッペンをサーヴィスでビートルズを買ったお客さんにだけ配っていたらしいんです」
と答えた。
「茜ちゃんは、ビートルズのいつ頃が一番好きなの?」
と和男はグラスのジンを啜りながら更に興味を抱いたように聞いてきた。
「私は<フォーセール>や<ヘルプ>や<ラバーソウル>くらいが一番好きですね」
と答えた。要するに1964年から65年くらいの時期である。この時期に彼らは「アイル・フォロー・ザ・サン」「イエスタデー」「涙の乗車券」や「ガール」「ミッシェル」「イン・マイ・ライフ」といった普及の名作を世の送り出していた。
「そうなの。茜さんらしいね」
と和男は何が茜らしいのかよく分からないが、そういう感じがよく似合っていると思ってそう言った。
「河合社長さんはどの時期がお好きなんですか?」
と茜が珍しく聞いてきたので、和男は
「そうだね。<マジカル・ミステリー・ツアー>あたりから<ホワイト・アルバム>からそれ以降は殆ど全部好きだね。尤もそれ以外の時期も全部好きだけれどね。特にね」
「まあ、渋めなのがお好きなのね」
とくすっと笑いながら茜はそう応えた。
それを聞いて芝沢が前の店で和男がグラフィックな画像処理の仕事をしているということを芝沢に告げていたので
「河合さんは凄い芸術家先生なんだよ」
と言った。それを聞いて和男は
「止めてくれよ、芸術家なんて」
と言った。それにしてもこの茜という女性はよく顔を見ると、なかなかコケティッシュな表情をしている。ちょっと上目使いの目つきが特にたまらない。それに少し三十路を過ぎているくらいに見えるが、もっと若いかも知れないし、もう少しいっているかも知れない。そういうミステリアスなところがまたいい。
しかし彼女の顔を眺めながらふと和男は菊池真理のことを思い出していた。あの時結婚しているかという質問に「ご想像にお任せしますわ」と言ったその真意は一体何だったのだろうか?和男はそう思った。そこで和男はいい機会だから若い女性から見て超中年である自分のような男性のことをどう思うかそれとなく聞いてみようと思った。つまり魅力ある男性ということに対する像は、同性である男性からよりも、異性である女性から見た像の方が説得力がある場合が多いと思ったからである。こういう時にさり気なく男性が本音から知りたいと思う女性の心理を聴くということは、なかなかタイミングが難しいのである。しかし今ここだという風に和男は踏んだのだった。つまり茜のその時の表情がもっと何でも聞いてきてというそういう風に訴えているように少なくとも和男にはそう思えたのである。
Tuesday, September 29, 2009
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