Tuesday, September 15, 2009

今日はいいところまで行ったが、もっと先まで行かせねば

 二人は話に夢中になっていたので、コーヒーはいつの間にか空になっていた。そこで和男は
 「もう一杯コーヒー飲みませんか?」
 と言うと、真理は
 「あ、今度は私が頼みます」
 と言って、向こうにいるウエイターを呼んだ。そして空のコーヒーのカップを示して、「これと同じのをもう一杯ずつ」と言った。ウエイターは頭を下げて「はい、かしこまりました」とだけ言って下がって行った。
 その時和男は一瞬真理がボーイの方を仰ぎ見た時の少し上へ首筋を上げたその仕草にほんのりとした色気を感じた。一瞬だったが女を感じさせる仕草を彼女は無意識からだろうが、彼に晒したのである。その時和男は男性というものは、女性が心の中に着ている着物を自発的に脱いでいくかということを如何に巧く誘導していくかということで、勝負を決めるとそう思った。つまり一人自宅でマスターベーションしている時に想像している異性とは端的にただ彼に従順であるだけのお人形であればよい。しかし現物の女性とはそうは行かない。つまりそのそうは行かなさ自体が男に努力を差し向けさせるのだ。所詮男は女性の中で果てることだけが生き甲斐な、そういう生き物である。全ての生活上の努力、つまり知性を磨くことも、仕事の能力を向上させることも、周囲から人望を得ることも、出世することも所詮女の膣の中で精子をゆったりとした気持ちで放出するためになされる途上の行為でしかない。それらは目的ではない、手段にしか過ぎないのである。
 かつて女優の五月みどりが言っていた「男の人って女性の中で行く時って最高にいい顔をするのよ」という言葉は説得力がある。特に彼女のようにいい男の精子を沢山吸収してきた熟女の言葉だから。
 しかしだからこそその最高の人生に瞬間のために如何に男とは色々と我慢を多くしなければいけないのだ、とそう和男は思った。
 
 二人は今後の仕事全体のこととか、あまり私的ではないことを結局話して、二杯目のコーヒーが空になった頃、二人の真横にある窓から見られる景色が大分暗くなってきたので、いくらまだ日が長い九月初旬であれ、いつまでも女性を引き止めておくのもよくない(あまり何ても焦ってはいけない、真理はあくまで仕事仲間なのだ、とそう和男は思った)と思い、
 「そろそろ出ますか」
 と和男は言った。すると彼女は
 「そうですわね」
 と言い立ち上がろうとした。しかしその時和男は今日はもう一つだけ何か踏み込まなければ折角彼女を誘った意味がないと思い(しかし心の中ではもし二人が肉体関係を持ってしまったのなら、もうそれまでのように一緒に仕事仲間としてお互いに認識することが困難になる。だからもしそういう地点まで踏み込むのなら、その時は仕事上でのパートナーを別に用意しておく必要はあると考えていた)
 「どうですか、また今度は少しアルコールを入れてお話致しませんか?菊池さんはお酒の方はいける口なんですか?」
 と聞いた。すると真理は
 「ええ、以前は社の同僚たちとよく飲みに行きましたよ。カラオケも好きでしたね。社を辞めてからは全くそういう場所へは行かなくなりましたけれどね」
 と言った。
 二人はそう話しながら入り口近くにあるレジ近辺へ歩いて行ったが、彼女が財布を出そうとしたので、和男はそれを引き止めて自分の財布から紙幣を出してレジに入っていった店員に支払った。

 外に出るとすっかり周囲の景色が秋めいていた。ほんのりとした涼風も吹いている。今年の夏はしかしそれほど暑くはなかったから、仕事をするのには最適だったが、景気はあまり回復することには繋がらないだろうし、今年の冬は暖冬であるらしいから、また日本経済には打撃になるかも知れないと一瞬思ったが、隣に女性がいるのに、そんなことを考えていては失礼だと思い、和男は
 「タクシーを止めましょうか」
 と言った。そして真理が「そうですね」と言ったので和男は前方からやって来るタクシーを手を挙げて停めた。そして一万円札一枚と数枚の千円冊を二枚菊池真理に渡すと、
 「また明日もよろしくお願い致します」
 と言って彼女を後部座席に乗るように促した。すると真理は彼が渡した紙幣を悪びれずに受取りながら
 「今日はどうもご馳走様でした」
 と言って車の中に乗り込んだ。
 車の中から手を振る真理の姿が遠ざかっていくのを見届けてから、和男は駅の方へ向かって歩いて行った。そこからバスで帰宅するのだ。車も持っていたが、会社へ行く時にはいつも色々と考え事をするようなタイプの人間だったので、和男は一切私用以外ではセダンを利用することはなかった。いずれもっと親しくなっていったなら、真理との一件でも車が必要になる時も来るかも知れない、と漠然と駅へ向かいながら歩いている時和男はそう思った。
 和男は敢えて彼女の住所も聞いてはいない。和男は最初から面接した全ての女性の住所さえもメールで送信させた履歴書に記述させなかったのだ。男性一人で仕事をする中に一人女性が参加するわけだから、そういう配慮は必要だと思ったからである。
 しかしこれで明日からもっと仕事にも精を出してくれるだろうと今度は経営者然とした気分で和男はそう思ったが、意外と彼女は話せば話すほど性的な魔力のようなものを奥へ奥へと引っ込めさせるようなタイプだと思った。それは女性としては当然の嗜みなのかも知れないが、ある部分ではあまりそうさせないようにしないと、そのまま向こうの思うとおりにさせていると、ただの上司と部下の関係になっていってしまう、とそう和男は思った。
 
 その日和男はいつものようにはネット配信で見るアダルト動画など一切見ることなく、冷蔵庫に数日前に買って入れておいたワインを取り出してグラスに注ぐとちびりちびりと舐めるように飲みだした。
 そして彼女がボーイにコーヒーのお代わりを頼んだ時に顔をボーイの方に一瞬挙げたその首筋を思い出し、一緒にいた間中ずっと彼女が仄かに放っていた女性特有の匂いを全身で想起させながら、ズボンの上から自らの股間をさすり始めた。そしてやおら中から勃起したペニスを取り出し、扱き始めた。
 細心の工夫をしながら彼はいつも自分のペニスを弄ぶ。しかし本当に女性との間で得る快感に比べればずっと快楽指数的には高いが、実感的には空しさも付き纏う。しかしその日は久し振りに生の女性と対話した後でする自慰だった。
 和男は二十分くらい時間をかけて、真理の首筋の様子を思い出しながら、忙しくて最近あまりしていなかったためにたんまりと溜まっていた精子を自分の掌の中に生暖かい感触を味わいながら発射させ、暫くその匂いを顔に持っていき、嗅いだ。まるで春草のような匂いである。まだまだ俺は行ける、そう和男は思った。そして精子でべとべとになった掌を台所の蛇口で綺麗に洗った。
 何も動画一切を利用せずに射精したのはかなり久し振りのことだった。そうである。やはり生の女性を想像してする自慰は最高だ、そう和男は思った。 
 しかしいつまでもそれだけに留めておくのはいけない、もっと先へと進ませなければ、そう和男は思った。

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