Sunday, September 13, 2009

今日することは今日の気分で決める2

 和男は真理を連れていつも行っているあるレストランに行こうと思っていた。いつも行くと言っても、日曜日などに一人で街に買い物に行く時などに昼食用に利用していたレストランである。ちょっと小粋なイタリアンレストラン風だが、別に格別イタリア料理店というわけではないし、中にはカレーライスもあったりするが、ファミレスでもない店だった。店内の装飾も華美ではなく、落ち着いていたし、女性を初めて誘うには格好の店だと思ったのだ。
 和男と真理は東京都内で最も埼玉県に近接したある都市にある和男がたった一人でまず創業させた会社が借りるマンションの一室(四階にあった)からエレベーターで降りて、マンションのエントランスから二百メートルくらい歩いて突き当たる大通りから駅の方へ向かって歩いた。和男は同じこの町の外れの森の脇にあるマンションに一人暮らしなのである。そしてマンションのエントランスにある郵便受けに入っていたらある別のマンションの部屋の売り出しの広告を見て、創業と共にある銀行からお金を借りてその一室を借りることにしたのだった。 
 菊池真理は三十五人の応募者の中で最後に彼が面接した女性だった。女性だけをネットの自分のブログ(和男は自分の些細な日常をブログにしていたが、その中で彼が事業をするつもりなので、そこで働きたい女性を公募したのだ)で募ったら何と三十五人も応募してきたのだ。メールで履歴を送信するように彼はブログの中で指定していたのだ。そこで彼は一切学歴を問わず、まるでソニーの入社試験のように一切学歴を書かせない履歴書を予め応募者にブログによる指定でメール送信して応募させた。年齢さえ書かないように指定した。すると年齢は分からないわけだから、大体推定で言うと、六十代の女性から、十代後半の女性まで様々な年齢の女性が応募していたということが、実際に一人一人メールの遣り取りで約束した日時に女性が彼が既に購入していたマンションの一室に訪れた時に分かった。   
 一人一人応対して勤労意欲とか、自分との相性を確かめるということもそんなに楽は作業ではなかった。そして最後まで三四人くらい最終候補を決めていたが、最後に少し他の応募者よりも遅くメールで履歴書を送信してきた(彼は応募者を締め切らなかったのだ)菊池真理とマンションで応対した時に彼女で行こうとその時決めたのだった。殆ど直観的なことだった。年齢は恐らく二十代後半くらいから三十代前半くらいだろうと彼は思った。恐らく未だ三十五よりは少し若いだろうとだけは思った。しかしそんなことはそもそもそんなに大した問題ではない。やはり重要なこととは仕事を一緒にする相性だったのだ。だから別に本当にいいパートナーであり得るのなら六十代の女性でもよかった。尤も容姿はそんなにどうでもいいという判断基準ではなかったということは最初に述べたとおりである。 
 二人は七分くらい歩いたある四つ角で止まった。和男が 
 「その角の店ですよ」 
と言うと対して真理は
 「まあ素敵な店ですね」 
と言った。その言葉で迷うことなく和男はその店に真理を入れようと思った。 
 女性をエスコートすることに格段和男は慣れているわけでもないが、まあ年齢的なこともあって、それほど緊張した異性に接しなければいけないということでもなかったということだが、相手も相手で和男が結構年配者なので、逆に安心していたということもあったかも知れない。そうであるならちょっと悔しい気もするが、この年になっているのだから、そんなことを気にしていては何も始まるまいとも思った。 
 しかし女性とは男性の方から格別の関心がある姿を最初から晒すと一気に気持ちが離れていくそういう生き物である。だから最初から がっつかない ようにしなければならない。 
 そう言えばつい最近、確か関西だったように記憶しているが、電車の運転士が写メールで運転室から乗客の女性を写したということがニュースで報じられたことを和男は思い出した。あれからその運転士はどのような処分を受けたのだろう、と彼は思った。しかしマスコミとは最初何か報じる時にはこれ見よがしに視聴者の関心を惹くニュースを選ぶけれど、その後日談まできちんと報じることなど滅多にないと思った。そうなのである。マスコミとはそういう風に責任なんて一切取らないのである。 
 でもそういうことをしなければならないくらいにその恐らく若い運転士は異性というものに対しての関心を注ぐ機会がなかったのだろうか?ああいう仕事をする人たちはきっとかなり生活態度が真面目であることが外面的な印象から求められているから、ストレスもきっとかなり溜まっていたのだろう、と勝手に和男は思った。 
 しかしそんなことを考えている暇はない、今はとにかく真理とどれくらいコミュニケート出来るかということがその時の最大の問題だったのだ。真理が横に歩いている時微かに真理から漂ってくる薄化粧の香りが和男の鼻腔を実は先ほどからずっと刺激し続けていた。勿論そういう時に和男のペニスの先は昔似た匂いを発散させていた女性のことなどを無意識の内に思い出し、くっと固有の快感が押し寄せていた。未だ俺は十分女を抱けるとそういう時に和男は思うのだった。しかしそのことに真理自身は気づいていたのだろうか?そう和男は思った。
 二人はレストランに入ると、ボーイの誘導に任せて、禁煙席を二人の相槌で了解した彼の後に続いて歩いていくと、二階にあるその店から眺望出来る四つ角の見える小窓のある最も奥の、しかしそんなに暗くはない席に案内されて腰掛けた。二人とも小窓に接して座ることの出来るテーブルだった。真理の方を和男は奥に座らせた。 
 二人が席に着くと、直ぐにボーイが水とメニューを運んできた。 
 「おなか空いていますか?」 
と和男が尋ねると真理は 
 「ええ、少し」 
と応えた。
 「菊池さんは普段はどんなところでお召しあがりになるんですか?」
と和男が尋ねると真理は
 「そうですね、その時に拠りますけれど、以前勤めていた会社では皆でよく昼食時なんかは、ハンバーグの店に行きましたね」 
と気さくに答えた。 
 「私のところに来てからはどういうところに行かれたりしていたんですか?」  
と和男が聞くと彼女は 
 「そうですね、さっき通った道から見えた定食屋さんがあったでしょう?」 
と真理が言ったので、そう言えばあったと思い出し、和男は自分は入ったことがなかったが 
 「ああ、ありますね」 
と返答した。 
 和男は仕事をしながらでも、あまり意識を集中しなければいけない作業以外の時には仕事と関係のないことを妄想することも結構好きだったので、向かいのデスクで仕事をする真理と時々業務のことについて声をかける時以外では、密かに彼女の顔や首筋をちらりちらりと観察しては、色々な想像をしたりしていた。そして時には性的な妄想もするのだった。 
 しかしその時は実際に彼女を店に誘って、色々話してみようと思っていたし、また仕事を終えて疲れてもいたし、少々腹も減っていたので、彼女を脇に従えて歩いている時に鼻腔に突き刺さったあの感じ以外では、意外と和男は妄想を逞しくすることが出来なかった。しかしそれはいいことなのだろう、現実とは妄想よりもずっとあっさりとしているものなのだ、と思って和男は、その時にテーブルにやってきたボーイの 
 「お決まりですか?」 
という一言に続いて 
 「何か好きなものを頼んで下さい。私が出しますから」 と言うと真理は 
 「そうですか、ではお言葉に甘えさせて頂きまして、じゃあ、私はペスカトーレを頂きます」 
 と言った。その言葉を受けて和男は別に何でもよかったので、 
 「では、私も同じものを」 
 とボーイに言うと、彼は 
 「かしこまりました」 
とだけ言って下がって行った。

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