Thursday, October 22, 2009

萱場総一郎氏との出会い(4)

 和男はこの君子という名の萱場氏の妻である女性に直観的にどこか男性自体に対して手慣れた感触を掴んでいた。それは彼女が行く後から応接間に入っていった時に確かめられた後姿から察する色香と、腰つき、そして一瞬プーンと匂った体臭からである。
 幸恵や杏子と共通する感触がそこには感じられた。茜は黙って全然違った格好をしていれば、クラブ勤めであるとまでは分からない雰囲気がある。しかし菊池真理は真理でかなり妖艶さがあったが、彼女はビジネスウーマン的な男性性もある。だからこそ日頃隠しているような妖艶さを逆に想像させてしまうところもある。しかしこの今目の前にいるこの君子はどこかしら男性に対して巧みに慰安的雰囲気を与える術を知っているように直観的に和男はそう踏んだのだった。しかしそれは間違いではなかった。
 しかし萱場氏は
「どうです、いい眺めでしょう?」
と和男に同意を求めた。しかし和男は先ほど絶景と言ってしまったので、今度は違う語彙で表現しようと思い
「どんな人が昔は住んでらっしゃったんでしょうね?」
と聞いた。すると萱場氏は
「近くの寺の僧侶だって聞いていますけれどね」
と言った。そして続けて
「私もよくは知らんのですよ」
と言った。それに続いて君子が玄関先で萱場総一郎から「埼玉からいらした河合和男さんでいらっしゃる」と君子に紹介していたので
「河合さんは埼玉県のどこら辺にお住まいなんですか?」
と聞いた。和男は
「ええ、小平の方なんですけれど、実は会社は東村山市のマンションを利用しているんです」
と言った。しかし京都に住んでいる人にそんなことを言っても分かるだろうか?しかし意外にも君子は
「よく知っていますよ。あそこら辺のことは、東村山のお隣は所沢ですよね」
と言った。
「よくご存知ですね」
と和男が言うと、君子は
「ええ、昔友人がそっちの方に住んでいて、訪ねたこともあるものですから」
と言った。
「狭山湖とか多摩湖、よく友人と一緒に歩きましたからね」
と言った。和男は度肝を抜かれた。
「それは奇遇ですね。多摩湖は村山貯水池が正式名称で、東大和市ですけれど」
と言うと君子は
「狭山湖、正式名称は山口貯水池で所沢市と入間市ですわよね。そうでしょ?」
と続けた。更に和男は君子の博識に度肝を抜かれた。少々狼狽している表情を和男がしていると、萱場氏が
「これは、よく桜の名所を日本中歩き回っているんですよ」
とそう言った。確かにあの両貯水池の周辺の桜は綺麗である。

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