Monday, October 5, 2009

親しくなるきっかけ

 和男が茜と話し込んでいる間、芝沢は幸恵としきりに二人と幸恵の隣に座る杏子も混ぜてゴルフの話しをしていた。やれ石川遼がどうだとか、宮里藍や美香、あるいは 諸見里しのぶ とか不動裕理だとか上田桃子とか 横峯さくら がどうだとか話していた。
 茜に対してその時和男は、親密さを感じ取っていた。大体において誰かと親しくなるということは、別のある人に対して親しくなりたかったのに、それが叶わずにいる時にそういった心の隙間が空いている二人がその隙間を埋めようとして接近することが多い。
 その時の和男にとってもそういう気持ちもあった。何故なら一番気にかかっていた菊池真理は自分が結婚しているかどうかも定かにしない。またそれでいいのが仕事仲間である。つまりそれ以上の関係にはなかなか行けないからこそ、神秘的に理想化しやすい相手として真理を位置づけることもその時の和男には出来た。だが今目の前にいる茜はそういう風に理想化していく必要を感じさせないくらいに親密になれる気がした。
 和男は茜の質問に対して
「意外と若い女性には私は理想を抱かないで、寧ろ安心出来る相手を選びたいという気持ちもありますね。尤も私もそう若くないから、そういう意味では若い頃は年上の女性に理想を求めたけれど、今では年下でも三十歳以上はもう姉御的に見ますね。女性の方が常にずっと精神年齢は高いからね」
と真摯に返答した。すると茜は
「まあ、社長さんもお若いままでいらっしゃいますのね」
と言った。
「そりゃそうさ、私だっていつまで経っても男の子っていうことなんだよ」
と言った。茜がそう言うと、しかしあまり腹も立たない感じがしたのは不思議だった。和男くらいの年齢の男性で独身だと知ると、同じマンションなんかでは独身の女性は警戒をして一緒にエレベーターには乗ろうとしない。そういう時意外と和男は傷つくのだった。
 しかしその日はあまり遅くならない内に帰宅したかったので、それとなく芝沢にそう耳打ちすると、芝沢は帰る旨を幸恵に耳打ちし、勘定をしようと立ち上がった。和男もそれに続いた。その際和男は
「また、いずれ今度は一人で来るよ」
と茜にだけ自分の携帯の番号をナプキンの裏にポケットに入れていたボールペンで素早く書いて渡すと、彼女は快くそれを受け取って、ドレスのポケットに仕舞い込んだ。
 しかしクラブの外に芝沢と出ると不思議と茜のことよりもやはり菊池真理のことが思い出された。毎日一緒に仕事をしている相手とはそれ以上もう親しくはなれないのだろうか?あるいはなるべきではないのだろうか?
 でももう一度今度は一人で茜を目当てに会いに来ようとだけはそう思った。幸恵も杏子も肉体だけはそそるものを持っている。意外と和男は若い女性の方に精神的には安らぎを感じるタイプなのである。
 そう考えながら、和男はそのクラブのある町の最寄りの駅から一駅乗って先ほどの店のある町まで戻ることにした。そして
「また何かあったら連絡してくれよ」
と言う芝沢に携帯の番号だけを教えてそのまま別れた。
「今日はご馳走さんだったね」
とだけ言って和男は改札を通り抜けた。それを見送って見えなくなると、芝沢もタクシー乗り場へ行った。

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